10月11日(金)、第12回海中海底工学フォーラム・ZERO(https://seasat.iis.u-tokyo.ac.jp/UTforum/)が、本学 大気海洋研究所で開催された。本フォーラムは、理学と工学の水面下の接点を探るべく、年に2回、本所(春)と大気海洋研究所(秋)にて、海中海底工学に関する最新の動向を取り上げて開催されている。今回は、66名の現地参加者に加えて、142名がオンライン参加した。
今回のフォーラムの目玉は、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の第405次研究航海 (JTRACK)において、2011年東北地方太平洋沖地震が発生した日本海溝で、プレート境界断層の掘削調査を実施している地球深部探査船「ちきゅう」からの実況中継である(URL: https://www.jamstec.go.jp/chikyu/j/exp405/index.html)。筑波大学 氏家 恒太郎 教授および海洋研究開発機構 奥津 なつみ 技術主事が現場からの中継を担当し、掘削されたコアサンプルを解析するコアラボ等を案内いただいた。会場では、大気海洋研究所 山口 飛鳥 准教授(本フォーラム幹事)が、今回の掘削調査・コア試料採取の意義と目的について解説し、現場と会場とが一体となった一時であった。
続く講演では、前半が理学系、後半がエンジニアリング系で進められ、山口幹事と本所 巻 俊宏 准教授(本フォーラム幹事)が交代で司会を行った。前半では、大気海洋研究所 渡部 雅浩 教授が「近年の熱帯太平洋海面水温パターン変化は謎」は、近年の熱帯太平洋の海面水温分布の変化の動向と気候モデルで予測される将来の変化と逆であることの謎に迫り、金沢大学 ロバート ジェンキンズ 准教授が「能登半島地震で海の中で何が起きた?珠洲市−能登町沿岸における浅海底調査結果」において、令和6年能登半島地震後の能登半島東岸の浅海における海底環境の変化を、最新の海底画像データを用いて示した。また、大気海洋研究所 道田 豊 特任教授による「海洋マイクロプラスチック研究の進展」では、ナノスケールのマイクロプラスチックは人体に取り込まれるという所まで研究が進んでいることが示された。
後半では、海外の最先端技術動向紹介として、コングスベルク・ディスカバリー社のMartin Gutowski氏(Vice President Sales & Marketing)が、2週間連続運航が可能なAUV「HUGIN Endurance」の紹介を行った。続いて、大阪公立大学 二瓶 泰範 准教授による「大学発スタートアップによるロボット漁船の実現」では、養殖業における人による餌補給作業の負担軽減と効率化のための餌を補給する自動航行船(ロボット漁船)の開発とスタートアップとしての起業の苦労について語られ、MizLinx社の野城 菜帆 代表取締役CEOによる「持続可能な海洋利用を実現するためのモニタリングシステムの開発」では、日本の水産業を発展させる様々な海洋観測システムを開発し、人の経験と勘に頼っていた部分を取得したデータに基づいて、効率化・最適化しようとするチャレンジングな活動が紹介された。最後の講演の国際水路機関(IHO)住吉 昌直 プロジェクトオフィサー(海上保安庁より出向)による海外動向報告「Seabed2030の現在地、モナコでの仕事、南仏での暮らし」では、2030年までに世界の海底地形データを100%取得することを目指すSeabed2030プロジェクトについて紹介された。2017年開始当初は約6%、2024年現在は26.1%まで取得が進んだとの事。当初からは約4倍増えたが、まだ70%は未取得である。海洋底のデータ取得の困難さが端的に示されていると言えよう。
次のフォーラムは、2025年4月11日(金)、本所コンベンションホールで開催いたします。皆様のご参加をお待ちしています。
(海中観測実装工学研究センター 特任研究員 杉松 治美)
左から、「ちきゅう」からの中継、司会をする山口幹事(左)とコアラボへと案内する奥津技術主事(右)、
会場からの質問(下)に答える、氏家教授(左上)と奥津技術主事(右)、
ジェンキンズ准教授による講演
左から、後半の司会をする巻幹事、Gutowski氏、二瓶准教授、野城代表取締役CEOによる講演