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【記者発表】デザイン主導の市民参加型科学研究の可能性――環境問題へ親子参加で行動変容を促す新しいSTEAM教育プログラム――

○発表のポイント:
◆親や教師を含む地元の大人たちの支援を受けながら、子どもたちを対象とし、海洋マイクロプラスチックをテーマとした、市民科学・STEAM教育プログラムを企画・実施しました。
◆市民科学プログラムの研究では、ほとんど調査されることのなかった、地元の子どもたちと親との家族的な関わりに注目したことが新規な点です。
◆デザイン研究者が長期的に地域と関わり、市民と一緒にデータを取りながら解決策を考える方法の効果の可能性が観察された点で、STEAM教育や市民参加型科学研究の発展に貢献することが期待されます。

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デザインされたサンプリングデバイスを用いたワークショップ

○概要:
 東京大学 生産技術研究所 附属価値創造デザイン推進基盤の左右田 智美 助教らの研究グループは、デザイン主導の市民科学・STEAM教育プログラムを実施し、親子での参加を通じて地域全体を巻き込み、環境問題への長期的な関心を促進する可能性を示しました。本研究では、世界的な課題であるマイクロプラスチック問題に焦点を当て、小学生を対象とした採取活動や、クリエイティブな解決策を考える市民科学・STEAM教育プログラムを実施しました。このプログラムは、マイクロプラスチックのサンプリング、自由研究、デザイナー主導の創造的な活動を組み合わせたもので、親子間の協働が観察されました。これにより、親子参加が地域全体の環境行動を促し、問題意識の向上や研究への関心を育む可能性が示唆されました。従来の研究と比較して、市民科学プログラムの中で親子で考えたプロセスが観察され、この成果はSTEAM教育や市民参加型科学研究の発展に貢献することが期待されます。

○発表内容:
 近年、海洋マイクロプラスチックは世界的な環境問題として注目されています。この問題解決には市民の協力や行動の変化が必要不可欠です。そのため、東京大学生産技術研究所DLXデザインラボでは、デザインの力を活用した包括的な問題解決方法を考え、実施しています。同ラボの研究チームは、マイクロプラスチックと海ごみ問題をテーマに、プログラムやプロダクト、そして、コミュニケーションデザインの観点から新しいアプローチを展開しています。
 その一環として、同ラボが中心となったチームが2022年に9週間にわたり、15名の小学生を対象とした「OMNIマイクロプラスチック(注1)こども研究員」というSTEAM教育を組み合わせた、放課後学習としての市民科学プログラムを神奈川県逗子市で実施しました。このプログラムでは、子どもたちがふるいを使ってマイクロプラスチックを採取するサンプリングを体験し(図1)、デザインを行ったマイクロプラスチック分別シート(図2)等を用いて観察と記録を行いながら、自由研究や問題解決のためのアイデアを考えるワークショップの実施(図3)や、自由研究を手助けするために、デザイン研究者が定期的なオンラインチュートリアルを実施しました。
 また、プログラムの中で研究室訪問(図4)や、デザイン研究者が作ったマイクロプラスチックの採取機械の製作過程のデモを見せ、参加者と研究者が学びと交流を深められる形でデザインし実施されました。様々な形の交流を2週間ごとに実施をすることで参加者が長期的に興味を持ち続けられるようにプログラムが考慮されています。

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図1:マイクロプラスチックのサンプリング体験

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図2:デザインを行ったマイクロプラスチック分別シート

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図3:アイデアワークショップ

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図4:研究室訪問

 プログラム終了後、5名の小学生が自由研究の発表として、研究グループがデザインしたサンプリングマシーンを説明した動画を編集し、公開したり、ごみを減らすためにできることについてアンケート調査の結果を発表したり、サンプリングの実験を最後まで継続的に実施をしました。
 さらに、10か月後の調査では、参加した 3組の親子が自主的に共に取り組み、ごみ削減に関する動画を作成したり、地域のマーケットで実施した活動に関する発表を行ったりと、プログラム終了後も地域で自由研究活動を継続して実施していることが確認されました。
 本研究は、親子が共に取り組むデザイン要素を取り入れた市民科学・STEAM教育プログラムを長期的に、研究者と協働するような姿勢を持って実施することで、市民の問題に対する変化が得られたことから、地域全体の問題への関心と行動変容を促す可能性を示しています。特に親子で取り組む効果や地域との連携が観察されたことで、当研究グループの子どもの教育だけでなく親も参加したくなるような長期的に地域で実施するプログラムデザインの意義が見出され、デザイン主導の市民参加型研究やSTEAM教育の新たな価値の可能性を提示しました。これらの成果は、地域と研究者が一緒に取り組む、持続可能でクリエイティブな環境問題解決のための新しい手法として期待されます。今後はこのような放課後教育プログラムデザインのフレームワークが他の環境問題の項目など様々な分野に応用と活用がされていくことが期待されています。

〇関連情報:
OMNIマイクロプラスチック ウェブサイト

○発表者・研究者等情報:
東京大学 生産技術研究所 附属価値創造デザイン推進基盤
 左右田 智美 助教 
 木下 晴之 特任助教(研究当時)
 ペニントン マイルス 教授

慶應義塾大学 環境情報学部
 加藤 文俊 教授

○論文情報:
〈雑誌名〉Citizen Science: Theory and Practice
〈題名〉After-School Programme for Motivating Creative Actions Related to the Problem of Oceanic Microplastic
〈著者名〉Tomomi Sayuda, Haruyuki Kinoshita, Fumitoshi Kato, Miles Pennington*
〈DOI〉10.5334/cstp.664

○研究助成:
本研究は東京大学-日本財団FSI基金海洋プラスチックごみ対策のための研究プロジェクトの支援により実施されました。
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○用語解説:
(注1)OMNIマイクロプラスチック(プロジェクト)
 OMNIマイクロプラスチックプロジェクトは、東京大学・日本財団FSI海洋プラスチックごみ対策のための研究プロジェクトの一部として、東京大学 生産技術研究所 DLXデザインラボが、海洋マイクロプラスチックの問題を研究者と地域の人たちが相互的に学び合いながらデザインを通じて解決を目指すプロジェクトです。

○問い合わせ先:
東京大学 生産技術研究所
価値創造デザイン推進基盤
助教 左右田 智美(さゆうだ ともみ)
Tel:03-5452-6164
E-mail:tomomis(末尾に"@iis.u-tokyo.ac.jp"をつけてください)

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